12)真の勝負/最終回(後編):兵頭二十八先生
そこでまず寝床の中で痛切に反省いたしましたのが、「ギックリ患者となった場合、
とりあえず必要なのは、懸垂の力や握力などではない。腕立て伏せの筋力である」ということでした。
体の角度を少し変えるにも、腕の力だけが頼みになるわけです。それも、片腕の。
胸の側の筋肉ではありません。肘をまっすぐに伸ばす時に使う外側の筋肉が、肝要です。
しかしこれがまた大いなる背反問題でして、腕立て伏せ運動というのは、必ずしも中年
の運動不足な人の背骨にとっては、よくないわけです。(腹筋運動も、同じく、悪いと思われます。)
背骨に悪い刺激を与えずに肘の外側の筋肉をどう鍛えたらよいかについては、後述しましょう。
さて、2日間の寝たきりのあと、ようやく「ナマケモノ」のようなスピードならば寝床
から出て動けるようになった私は、それから10日くらい安静に暮らしていて、散歩も問題
なくできるようになったところで、いよいよ、それまでの自己流体操のメニューを根本か
ら改めることにしました。
まずはなんとしても、ギックリ腰を再発させないようにする方法を考えなくてはなりま
せん。とつぜんに「寝たきり」を強いられるというのは、時と場所によっては、もう死活
問題になりましょうからね。
勇気が出るとか出ないとか以前の、老人の「クオリティ・オヴ・ライフ」にかかわる問題でしょう。
それで、以下に、わたしがその後、試行錯誤したあげく、「これならよさそうだ」と今
思っている、「予防体操メニュー」の、結論だけを申し上げるとしましょう。
まず、「立ったまま、上体をゆっくり左右にねじる」、半旋回の運動です。
目的は、椅子に坐りっぱなしの生活を日々送りながら、背骨回りの筋肉を、1日中タル
ませないようにすることです。が、そのさい、背骨の継ぎ目に無理なストレスをかけるよ
うな、きびしいモーションでは、絶対にいけない。
そのスタイルはいろいろ考えられるでしょう。
けれども、わたしの到達した結論は、こうです。「てのひらを天井に向けて両腕を水平
にまっすぐ伸ばし、両膝をくつろげて、左右交互に、180度以上後ろを振り向くように
する。これを何十回か反復実行する。それを、起床後に1セット。そして、就寝するまで
に、もう1セット」。
次に、背骨に不必要な負荷がかからず、かつ、毎日飽きずに継続可能な下肢強化体操メ
ニューが、「しずかなる四股」です。これは新鮮な発見でした。
それまでは、「主婦の痩せ運動」として知られている「踏み台昇降運動」と、以前に函
館のイベントで田中光四郎先生から教えて貰った「左右交互にテレマーク着地姿勢をつく
ることによって膝をやたらに鍛える方法」を間歇的に実施していました。しかしわたしは
比較実践により、結論を得ました。日常ほとんど戸外を出歩かないようなヒキコモラーの
ギックリ予備患者には「しずかなる四股」の方が、オススメです。
「しずかなる四股」は、椅子や台のような器具を必要としせず、しかもヘトヘトに疲れ
ることもありません。
片足立ちになることで、適度に下肢の筋肉全般に負荷をかけることができ、股関節は柔
軟になり、しかも、手で膝頭を押さえることにより、背骨への悪いショックは緩和されます。
床を強く踏まないので、階下に騒音を及ぼしません。
そして、慣れるに従い、何かを持ち上げるときに、まず腰を十分に落とすという動作が、
無意識のうちにできるようになります。予防になるのです。
さらに、片足を大きく持ち上げるモーションは、背骨回りのインナーマッスルも適度に
緊張させてくれる効果があるように、感じています。
それから、以前は、「ぶらさがり健康器」を使って毎日、順手の懸垂を10回やっていた
ものでしたが、これは、かえって背骨に悪いのではないか、と思い直すようになりました。
(じっさい、「2日間寝たきり事故」を予防できなかったのですからね。そのメニューでは……。)
ぶらさがり健康器に、短い「平行棒」のようなパーツがついているものが、あるでしょ
う? ギックリ患者になったつもりで、あれを両手で掴み、自分の体を、時計の秒針のよ
うにゆっくり、背骨を刺激しないように10秒ぐらいかけて持ち上げる。そういうメニュー
に、変えてみました。
また、懸垂をする場合でも、逆手握りで、ごくゆっくりと、1回だけ、実施するようにしました。
上半身に余計な筋肉の重さをつけるより、とにかく腰を破壊しないことが優先だと思う
ようになっております。
さらに、以前は、「真剣よりも少し重い棒」を、「片手で縦横に振る」という運動を室
内でやっていたんですが、これも(立て膝で実施しても)背骨に悪いに違いないと思い直
し、仰向けに寝た姿勢で実施することにしました。
たいへん、具合が好いです。垂直懸垂をやっていた頃より、筋肉がついてしまったよう
に自覚されます。
腕立て伏せも、工夫をしました。完全に腹ばいになった状態から、できるだけ、片手の
力で、上体を持ち上げるようにするのです。両手の指先は、胸の中央でくっつけておきま
す。これを交互にやる。これで、肘の外側の筋肉を、日頃から鍛えておくことができます。
また、寝たきりになってしまったときに、きっと重宝するでしょう!
腹筋運動を、背骨に負担なく実施するためには、立った姿勢で、手で背後の何かにつか
まりながら、片足の膝を連続して上に持ち上げる、そういう運動をしずかに繰り返すのが、
無難なように思います。このとき、プロ野球選手がよくやっているような「上体ヒネリ」
なんぞを加えては、絶対にいけません。
背筋に無理なく運動させる方法は、椅子などに両手をつき、片足を後方にゆっくりと蹴
り上げるような姿勢をつくり、その姿勢の頂点で静止することです。
以上は、いずれも、目下のわたくしの結論です。これを今後、続けていくうちに、もし
また何かマズイことが発見できたら、ご報告したいと思います。
人間の体は、やっぱり、中心部分がいちばん大事で、背骨が破壊されたら、歩くことす
らできないし、武術などを知っていたところで、どうしようもなくなるということが、よ
くよく分かった「寝たきり」体験でした。
皆さんも、本当に一番大事なものと、そうでないものを、よく見極めてください。どう
でもいいことに、こだわっていませんか? 最悪事態に陥れば、その見きわめが、できる
ようになりますよ。そこから復活するときこそ、真の勝負ではないでしょうか。幸運を祈
ります。
(連載は今回で終わりです。1年間、ご愛読ありがとうございました。)
(08/10/17)
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